第32章 出迎え

エンジンの音が上がった。

南坂海乃がアクセルを踏み込む。黒いカイエンは矢のように飛び出し、鼻をつく排気ガスだけを残していった。

黒谷優はその場に立ち尽くしたまま、泣きじゃくる娘を抱き、隣では佐藤詩乃が延々と何か言い続けている。車が角の向こうへ消えるのを見送った瞬間、全身の血がすうっと冷えていくのを感じた。

――今度は、本当に振り返らなかった。

……

マンションに戻ると、南坂海乃は、たった今ひと戦終えたみたいに力が抜けた。

バッグをソファに放り投げ、氷水を注いで一息に飲み干す。胸の奥にこびりついていた息苦しさが、ようやく少しだけ和らいだ。

「……ふぅ」

長く息を吐き、嫌なことは...

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